093「あなたが一番」(詠凜)
紅蓮との戦いを経て、私たちは恋人同士になった。けれど、それは決して無事と言えるようなものではなく。
詠の全身にまかれた包帯が、時折聞こえるうめき声があの戦いが壮絶なものであったと思い出させる。
本当の気持ちを閉じ込めて紅蓮の元へ行くはずだった私を、詠はあの時助けに来てくれた。格上の紅蓮相手に一歩も引かず、もしかしたら死んじゃうような傷を負ってまで戦ってくれた。……助けてくれた、とか戦ってくれたというと詠は自分のためにやったんだと言いそうだけれど、何にしても詠は私の思いを受け入れてくれて、そして好きだと、おばあちゃんになるまでずっと一緒にいてくれると言ってくれた。
それがどれほど嬉しかったか、詠はたぶん知らない。
「……あ、かね?」
小さなかすれ声に視線を下げると、うっすら瞼を開けた詠がぼんやりとした表情を浮かべながら私の方を見ていた。
「……っ、詠!」
思わず抱き着きそうになって、吟さんから絶対安静だからね、と言われていたことを思い出して慌てて抑える。
私の挙動がおかしかったのか、詠は微かに笑みを見せる。
よかった、目が覚めて本当によかった……!
「吟さん呼んでく、る……?」
立ち上がろうとしたところで詠に袖をくっと握られる。
「もう少し、ここにいてくれ……」
それは詠の最大限の甘えだったのかもしれない。だって、顔が真っ赤になっていたのだから。
それに、うんと頷いて私はぎゅっと詠の手を握った。
(愛の力だねぇ)