踏み出す一歩目
*あの土砂崩れの一件からひと月弱。今日もオレはばあちゃんと共にあの診療所を目指して歩いている。最初にばあちゃんについて行ったときは途中からばあちゃんをおぶっていったし、道もわからなかったから遠いと感じたけれど、慣れた今では話しながら歩いていればそれほどの距離だとは思わなくなった。
「今日はいい天気だな」
「ふふ、そうね」
午後の気持ちの良い陽気と木陰から差し込む優しい光に隣を歩くばあちゃんの歩みも心なしか軽いような気がする。そしてそれはオレも同じだった。体調云々というわけではなく、気持ちが軽いというか、なんというか。天気がいいというのはそれだけで気分も明るくなる。
「それにしても怪我がよくなってよかったわね」
「ああ、うん。そうだな」
医者からは完治したとはいえまだ当分任務には出るなと口酸っぱく言われているから、ここ最近は三日に一度診療所に行っている。
それというのも、ばあちゃんが茶飲みに誘われただの検診だのと理由をつけてオレを付き添わせているからなのだけれど、当然のことながらそう毎回茶飲みの約束や検診があるわけではなく、半分以上はのはら先生に会いに行く口実だというのもわかっている。わかっていて、それでも一緒に行くのはばあちゃんが心配というのもあるし、体を動かさなければすぐに鈍ってしまうというのもある。それに何より最大の理由はオレも彼女と話をしたいというのがある。
不思議と、彼女と話をしていると心が弾む。
楽しい。
嬉しい。
もっと話をしたい。
そんなことを考える。
そうこうしているうちに目的地に到着する。
扉をノックすると、その音は室内にいる彼女の耳に届いたようで、ゆっくりと扉が開かれる。
「こんにちは。うちはさん、おばあさん」
のはら先生の華やかな笑みに出迎えられて一瞬言葉に詰まる。
「こ、こんにちは……のはら先生」
挨拶ってこんなに緊張するものだっただろうか。それともこれは彼女相手だからか?
少しだけ上擦った気持ちを落ち着けるために一つ深呼吸をする。
「オビトちゃんは相変わらず見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうくらい初心ねぇ」
「ば、ばあちゃん!」
オレがいつまでも扉の前で立ち尽くしているからか、ばあちゃんはそんなことを言う。
背中にぶつかる声に押されるようにして診療所の中に入るとそこにはすでに茶飲みの用意がされていた。
「お待ちしてましたよ」
そう言って、のはら先生はオレとばあちゃんを席へ勧めるといつものように茶と菓子を出してくれる。
ここで飲む茶は他のところで飲む茶と違ってとても美味い。何か特別な茶葉を使っているのかと尋ねてみたところ、「普通に売っているものですよ」と笑みと共に返されたのはつい先日のこと。じゃあ淹れ方が上手なのね、とばあちゃんの切り返しで彼女は少し照れていた。オレでは彼女のあの表情を引き出すどころかばあちゃんのような切り替えしすらできないな、と少しだけ凹んだのは今となってはいい経験だったと思う。次似たような話題になった時に、今度はこうやって話題を広げればいいのかと勉強にもなったのだから。
茶を一口含む。うん、今日も美味い。
つい長居をしてしまうのはこの茶も一つの要因と言っても過言ではないくらいだ。それはばあちゃんも同じだったようで、
「やっぱり先生が淹れてくれるお茶は美味しいわねぇ」
「ありがとうございます」
「お茶も美味しいし先生とお話しするのも楽しいし、つい長居をしちゃうのよね」
「私の方は全然構いませんよ」
なんて会話に華を咲かせている。
まるでオレの心の中を読み取ったのではないかというくらいの正確さでばあちゃんが言葉にしたものだから危うく飲んでいた茶を吹き出すところだった。
危ねえ……。
ふふふ、とばあちゃんが笑いながらオレの方を見てくる。なんだろう、心を見透かされたような気がして落ち着かない。いや、ばあちゃんにそんな超能力的な力はないはず。……ないよな? ないんだよな?
「そういえば」
ばあちゃんが話を変えようと手をぱちんと打ち鳴らす。そのおかげでオレのそわそわとした思考も強制的に切りかえることができた。
一度心を落ち着けるために茶を含む。
ああ、落ち着――
「先生ってお付き合いしている方とかいらっしゃらないの?」
「ぶはっ!」
今度こそオレは我慢しきれずに茶を吹き出してしまった。
ばあちゃんは驚きながらも背中をさすってくれるし、のはら先生は慌ててテーブルを拭きながら大丈夫ですかと問いかけてくる。大丈夫です、と答えてみたものの正直なところを言えば全然大丈夫ではない。心臓はこれでもかとばくばくと脈打っているし羞恥心からかそれとも話題が話題だったからか頬は染まるしでとても見れたものではない状態になっている。
ばあちゃんの爆弾発言でとんだ醜態を晒してしまった。
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「…………」
「…………」
会話がそこで止まってしまう。一度止まってしまうと同じ話題に戻すことは至難の業だ。それが戻したい話題かどうかはさておき、だけど。
短い沈黙の後、のはら先生はそういえば、というように少なくなってしまったオレの湯呑に茶を注いでくれる。とぽぽ、と小気味のいい音と湯気を立てながら湯呑が満たされていく。
「ありがとうございます」
「いいえ」
淹れてもらった茶を飲みながらばあちゃんの爆弾発言を頭の隅の方で思い出す。
「先生ってお付き合いしている方とかいらっしゃらないの?」
のはら先生ほどの人ならそういう関係性の人間がいてもおかしくはない――のだけれど。なんだろう、なんだかもやもやというかいがいがするというか。この感じを率直に言葉にするとしたら、嫌だ、だ。のはら先生が誰かと付き合っているかもしれないと考えるだけで頭の中で嫌だと声を張り上げる自分がいる。
そこで気付く。どうして? と。自分の中に生じた疑問に首を傾げる自分がいる。
どうして今、オレは嫌だなんて思うのだろう。なんでのはら先生の隣にオレ以外の人間がいることをよしとできないのだろう。まだオレはあの初恋を引きずっているのか? それともこんな短い間に二度目の恋に落ちたというのか? 自分のことだというのにわからない。この想いは、いったいどっちに向いているんだ?
「うちはさん?」
のはら先生からの問いかけで我に返る。いつの間にかばあちゃん、そしてのはら先生、二人の視線がオレに集中していてなんだか気恥ずかしくなる。
「ぼーっとしてどうかしたんですか? もしかしてまだ傷が痛むとか?」
のはら先生が眉を下げる。それに対して、大丈夫ですと答えたけれど彼女の表情は少しも晴れることはない。それはオレの言葉を信用していない、というわけではなくただ純粋に心配をしてくれているようだった。
「本当に何ともないので。心配してくれてありがとうございます」
「そう、ですか」
渋々という形ではあるけれど、のはら先生は納得したように首を浅く下げる。
再び会話が途切れたタイミングでばあちゃんがやんわりと笑みを浮かべて口を開く。
「さっきは変なこと訊いちゃってごめんなさいね。どうもこの歳になると色々と気になってしまって」
「いえ、私は全然気にしてませんよ」
「先生は優しいわね」
ふふ、と笑ってばあちゃんは湯呑から手を放し今度はオレに視線を投げてくる。
「それじゃそろそろお暇しようかしらね」
「ああ、そうだな」
ばあちゃんの提案に頷いてからのはら先生へと視線を投げる。
「ごちそうさまでした」
「あ、はい」
オレが頭を浅く下げるとのはら先生もそれに倣ってか同じように頭を下げる。それを見届けてからばあちゃん共々席を立ち、ドアへ向かう。ノブに手をかけてドアを開ければいつの間にか外の景色は赤みを帯びている。そんなに長い時間いたつもりはなかったのに、これはあれか。楽しい時間程早く時が進むってやつか――なんてことを頭の隅で考えながら、のはら先生の方へ向き直り軽く会釈をする。
「また来ますね、先生」
「はい。うちはさん、おばあさん、お気をつけて」
ひらひらと手を振って、のはら先生はしばらくの間オレたちの背中を見守ってくれていたみたいだった。
*
「オビトちゃん、行きましょう」
最早恒例行事のようになってしまった、診療所通い。
そんなに頻繁に行って――と言っても三日に一回のペースだけれど、それでもよく会話のタネが尽きないものだとばあちゃんには感心してしまう。日々色々なことに目を向け、耳を傾けているからなのか、のはら先生とばあちゃんは毎度行くたびに違う話題を口にしているし、今まで同じ話題を話しているところを見たことがない。
すごいなと感心させられるのと同時に少しくらいオレものはら先生と話したいんだけどな――なんて不貞腐れた思いが沸き上がる。一応ばあちゃんの付き添いという形だし、オレ自身会話の引き出しが多くないからばあちゃんのように話せるかと言われると難しいけれど、せっかく診療所まで行っているのだから話を聞いているだけではなくて少しくらい会話に混じりたい――まではいかなくても数分でいいからのはら先生と話をしたい。
もっとのはら先生のことを知りたい。そうすればこの間感じた、どっちに向いているのかわからない想いの答えがわかるかもしれないのだから。
「オビトちゃん、大丈夫?」
オレが黙ったまま難しい顔をしていたからなのか、ばあちゃんは悲しそうな眼を向けて首を傾げている。
しまった。またこの間と同じことをやってしまった。
「あ、ごめん。なんでもない。ちょっと考え事してただけだから」
「それって先生のこと?」
「!」
ばあちゃんは何でもお見通しなのだろうか。
オレの表情を見て、ばあちゃんはやっぱりねと言いたげに頬を緩める。
カマかけられたのか……。まあ、ばあちゃんにはガキの頃から世話になっているし今更隠し事ができるとは思ってもいないけれど。それでもこうも的確に当てられてしまうと情けなさにも似た感情がゆっくりと渦を巻く。
「そう、だけど」
嘘をつく理由も必要もないから正直に答えてみたものの、オレの渋々出した返答にばあちゃんは笑みを明るくする。
「まあまあ! それはいいわねぇ。青春じゃないの」
「三十の男に青春とか似合わないだろ」
「そうでもないわよ」
ばあちゃんは強く断言する。
なんだろう、そういう経験でもあるのだろうかってくらい語気が強い。
「オビトちゃんと先生が結婚したら私はとても嬉しいわぁ」
「気が早すぎだろ」
「あら? そう言うってことは満更でもないのね?」
しまった。墓穴を掘った。
オレの中ではまだ消化しきれていない想いに対しての言葉だったからか、ばあちゃん相手で気が緩んでいたからか、うっかり言わなくてもいいことを言ってしまった。
「満更でもないっていうか、わかんないんだよ。ずっと今までのはら先生の前世に恋してたんだから」
オレの心中を吐露した言葉にばあちゃんは、そうねとだけ答えて会話がぱったりと途切れる。
それからしばらく無言で歩いて、診療所の近くまで来たところで何やら慌ただしい気配を察する。
「何かあったのかしらね」
ばあちゃんの不穏を乗せた声に心臓がぎゅっと締め付けられる。もしかしてのはら先生に何かあったんじゃ――!
居ても立ってもいられず足早に診療所へと向かうと、そこには入り口で数人の男とのはら先生が何かを話しこんでいる様子が見て取れた。ひとまず先生が無事なことを確認出来てほっとしたのも束の間、彼女の視線がオレを捉え、一瞬困ったような表情をした後、来てくださいと訴えるものへと変わる。
「どうかしたんですか?」
男たちの背後から声をかけたからか、今までのはら先生に向いていた視線が一気にオレに向けられる。数人の男に一斉に視線を向けられることがあまりないからか、一瞬怯む。が、すぐに気を持ち直して男たちとのはら先生からの返答を待つ。
「それが、この方たちのお子さんがこの近くの森で迷子になってしまったみたいで……」
それで何故のはら先生のところに相談に来るのだろう――と口に出しそうになって慌てて口を引き結ぶ。
のはら先生はこの近くの森、と言った。ということは下手に土地勘のない人間に助けを求めるよりもここに住んでいる彼女に助けを、もしくは助言を求める方が効率もいいし確実性が上がる、というわけか。それにしたっていくら近くに住んでいるからといって森全体を把握しているわけじゃ――
「では私が森の中に入りますので皆さんはここで待機していてください」
「え!?」
男たちからもそしてオレとばあちゃんからも驚きの声が上がるし、のはら先生の言葉に耳を疑わざるを得ない。どうして彼女が森に入る必要がある? そんなの見当がつきそうなところを教えれば済むことじゃないか。
「大丈夫ですよ。私、薬草取りでしょっちゅうあの森には行ってますし地形も頭に入ってます」
だから心配するなと言いたいのだろうが、そうもいかない。大体何人の子どもが迷子になっているのかは知らないがのはら先生一人で探し出すには骨が折れる。
……ならば、ここはこれしかない。
「オレも行きます」
さっと右手を挙げる。またしても男たちの視線を集めてしまうけれど気にしていたら話なんて一向に前に進まないから少し視線を逸らすことで回避する。
「でも」
「前にも言いましたけど、オレこういう事態には慣れてるんですよ」
それ以上は何も言わせない、とばかりに強気に言えばのはら先生もそれ以上追及することはなく。代わりにお願いしますとゆっくり頭を下げる。
「ばあちゃん」
くるりと首を傾けて今度はばあちゃんに視線を投げる。
「何? オビトちゃん」
オレの言わんとしていることがなんとなくわかっているからなのか、ばあちゃんは少しだけ厳しさを交えた表情で応える。
「悪いけどここで待っててくれるか?」
「わかったわ。気を付けてね」
視線を元に戻す。
「もしかしたら一人でに出てくるかもしれないので、森の外で待っている役としてあともうお一人ついてきてくれませんか?」
「それじゃあ俺が行こう」
のはら先生の言葉に、男たちの中でもひときわガタイのいい男が挙手をし、即席の三人一組が出来上がる。といっても一人は見張り役なので実質的には二人一組だが。
「では行きましょう」
のはら先生の号令を合図にオレたちは件の森へと向かった。
「ではあなたはここで待っていてください」
のはら先生はそう男に言いつけて、オレと共に昼間でも薄暗い森の中へと入っていく。
「それで何人迷子になったんですか?」
「二人です。男の子と女の子だそうです」
必要な情報を得ながら草木を分けつつ、最早獣道にも似た道なき道を歩いていく。注意深く人の通った痕跡を探すものの、迷子の姿はおろかその痕跡すら発見できない。
それほど遠くへは行ってはいないだろうと考えていたが、もしかしたらもっと深部の方へ行っているのかもしれない。森というのは似た風景の連続のためか、何か目印をつけておかなければ簡単に迷子になってしまう。それが目線の低い子どもであればなおのこと。
参ったな……。これは思ったよりも難しそうだな……。
心の内でため息を吐き出したまさにその時だった。耳に届けられたのは微かな声。のはら先生に止まるよう合図を出して耳をそばだてる。それに倣い彼女も耳に全神経を集中させる。
静寂の中から聞こえてくるのは風が草をなぐ音。鳥や獣の声。呼吸の音。そして――
「……けて」――たすけて
その四文字を聞き取り認識するや否やオレの足は声の元へと駆けだす。オレが突然駆けだしたものだからのはら先生は大層驚いたみたいだが、素早く意図を理解し後を追いかけてくる。
行く道を塞ぐ草木をかき分け、たどり着いた先は少々開けた場所。
「だれかぁ」
「たすけてぇ」
そこにはオレが先程聞いた声の主の女の子と男の子の姿があった。
急いで二人の元へ駆け寄り声をかける。
「大丈夫か?」
いきなり現れた大人二人に子どもたちは怯えた色を隠そうともせずに表情を作る。見知らぬ人間に対する反応としては上々だけれど、今はもう少しだけ友好的な態度を取ってもらいたい。
すぐそばに立っていたのはら先生はゆっくりと膝をついて子どもたちの目線に自分のそれを合わせる。
「大丈夫、安心して。私たちはあなたたちのお父さんたちから助けてくれって頼まれて来たの」
にこりと優しい笑みを浮かべて、のはら先生はもう大丈夫だよと二人を抱きしめる。途端に小さな泣き声が漏れ聞こえる。
「こわかったよぅ」
「うん、よく頑張ったね」
偉かったね、と背中を摩ってのはら先生はまるで母親のような笑みで二人を包み込む。
その光景が妙に目に焼き付いて離れない。
「二人とも歩ける?」
漸くのはら先生から意識を引きはがせたのは、彼女による二人への問いかけがきっかけだった。
「だいじょうぶ」
「あるける」
二人の返答に満足したのか、のはら先生はうん、と笑う。
「それじゃあ帰ろうか」
のはら先生は子ども二人を左右両方の手で手を繋ぎ、オレはその後ろについて歩く。まあ、最初の印象がよくなかったというのもあるし、何より何かあった時に対処ができるようにということで率先して一人であることを選んだ。そしてそれは幸か不幸か間違ってはいなかった。
ガサリ。
草木をかき分ける音。まさかオレたちのほかにこの森に分け入った人間がいたというのか、とその音のした方向へ視線を向ける。と、そこにいたのは人間ではなく獣――野犬だった。
瞬時に前に出て自分の背にのはら先生と子どもたちを隠し、盾になる。
まずい。今日に限ってクナイも手裏剣も携行していない。しかもこんな草木が密集しているところで忍術なんて使えるわけがない。オレ一人ならなんてことはないけれど今オレの後ろにはのはら先生と子どもが二人。三人を庇いながらとなるとかなり戦況は厳しいものとなる。それならば――。
「のはら先生、オレが時間を稼ぎます。その間に森を抜けてください」
ぼそりとこぼすように口にする。聡明な彼女ならこれだけでわかってくれるはず。オレの、言葉にしなかった思いを汲み取ってくれるはず。
背中に庇っているから当然のはら先生の表情は見えないけれど、渋い顔をしているのはなんとなくわかる。彼女はそういう人だ。優しくて他人の痛みを知ることのできる人。そして今自分がすべきことを感情に振り回されずにできる人だと信じている。
「……わかりました。でも絶対に無理をしないでください。それだけ約束してください」
「はい」
何故だろう。心の奥底が温かくなって、嬉しい、と感じる。
野犬に後れを取るとは到底思っていないけれど、今ののはら先生の言葉で気が引き締まったし勇気づけられた。
ぐっと拳を握り腰を落とす。オレが戦闘態勢に入ったのを見届けてからのはら先生と子どもたちは走り出す。それに刺激されたのか野犬がオレに向けて突進してくる。
「きやがれ」
拳に力を込めてオレは野犬を迎え撃った。
端的に結果だけ言えば勝利した。けれど決して楽勝というわけではなかった。人間を相手にするときと勝手が違うからか野犬の動きや思考が読みきれず、かなり苦戦を強いられた。ヤツの最後の一撃はオレの左腕をザックリと切り裂き、勝負がついて止血を施した今もズキズキと痛みを訴えてくる。よく切れる刃物で切られたならまだしも犬歯による傷なんてズタボロに引き裂かれたようなものだ。
こりゃ処置が大変そうだな、なんてどこか他人事のように考えながら森の中を足早に進んでいく。
がさり、がさり。
無遠慮にただひたすら出口を一直線に目指す。
腰ほどの高さがある草をかき分けたところでそれが傷口に触れたのか一際腕の傷が痛む。
「……っ」
声を上げるほどではないが、それでも眉間にシワが何本か寄る。やけに痛んだけど、気のせいか?
疑問に思いながらも黙々と歩き続け、数分後には森から脱することができた。
「……はぁ」
一つ大きく息を吐き出す。ふと周りを見渡すと人の影はなく。のはら先生のことだから子どもたちとそして父親たちを早く安心させるために診療所に戻ったのかもしれない。確かにそれが一番優先すべきことだし、もしオレがのはら先生と同じ立場であったとしても同じことをしたと思う。
だけど、なんだろうな……。ほんの少しだけ寂しいと思ってしまうのは何故だろう。のはら先生に待っていて欲しかったなんて考えてしまうのは何故だろう。
情けないことを考える自分に嫌気がさして頭を振る。考える暇があるなら足を動かそう。診療所にはばあちゃんも待たせているし早く戻らなければ。
「……っ、はぁ、はぁ」
一歩踏み出すごとに傷口がズキリと痛む。
明らかに傷が悪化している、というのはわかるけれどその原因がよくわからない。傷を負ってから追い討ちをされたわけでもないし、毒を仕込まれたというわけでもない。もしや野犬の唾液に人間の体によくない成分でも入ってたとか? 考えれば考えるほど答えから遠のいていく感覚にまたしても眉間にシワが寄るし嫌な汗が額に玉を作る。ようやく診療所に辿り着いた頃には全身汗びっしょりになっていた。
ドアに手をかけたところでそれが一人でに口を開ける。驚いて目を見開くオレに、
「うちはさん!?」
「オビトちゃん!」
のはら先生とばあちゃんが血相を変えて迎え入れてくれる。それが嬉しくて、安心したからか、急に体の力が抜ける。
のはら先生とばあちゃんの会話がどこか遠くの方で聞こえるような感覚に、微かに首を傾げ――そのまま体が地面に傾くのを感じる。
あ……これ、やばいな。
体が言うことを聞かず、そのまま受け身もとれずに倒れこむ。鈍痛でさえも感じることができず、自分の体にじわじわと広がる変化に抗えない。瞼がオレの意思とは関係なく強制的に閉ざされる。
「……ん!」
「大…………さい!」
二人の慌てふためいた声を聞きながらオレの意識は闇に呑まれていった。
*
重い瞼をゆっくりと開ける。と、そこに見えたのは清潔感に溢れた真っ白い天井だった。
最近この景色をよく見るな、と苦笑しながらも先日まで入院していた病院のそれとは少しだけ違うことに気付く。てっきり同じ病院に搬送されたとばかり思っていたから内心首を傾げる。
「どこだ、ここ」
ぼそりとこぼした独り言は誰に拾われるでもなく静かに溶けていく。
大きく深呼吸すると薬っぽい匂いの中にここ数日ずっと嗅いでいた茶の香りが混じっていて、ここがのはら先生の診療所であることを理解する。理解したはいいが今度はどうしてここに寝かされているのか、そっちの理由がわからない。記憶を遡ろうにもまだ目が覚めたばかりで上手いこと頭が働かない。
ひとまず上体を起こそうと腕に力を入れたところで左腕に痛みが走り、上げかけていた上体は寝台にぼすんと沈む。
痛みの出所に視線をやると包帯でぐるぐる巻きにされているし反対側の腕には何本もの管が繋がっている。
あれ……? オレ、確か野犬と戦って、それで……。
いくら左腕の傷が酷かったからといってこの管の量は尋常じゃない。もしかしてオレ、めちゃくちゃやばい状況だったのか? ……確かに、思い返してみれば診療所に戻るまでの道のりで徐々に傷が悪化しているのは感じてはいたけれど、こんな、管を何本も挿れられるほど重傷だったとは思いもしなかった。
「…………」
まだ体が本調子ではないのか、それともカーテンから差し込む日の光のせいか、瞼が重くなるのを感じる。あと少しで完全に瞼が落ちる――というところで近くに人の気配を察する。ゆっくりその気配をたどって首を傾けるとそこにいたのは――。
「のはら、先生」
「……うちはさん! 気が付いたんですね!」
のはら先生はよかった、と心底安堵したような表情でオレを捉える。その表情を見たとたん、心臓がひときわ大きく鼓動する。ああ、よかった。オレはこの人の笑顔をまた見ることができた。守れてよかった。
安心してなのか、それとも別の感情からなのか、不覚にも泣きそうになって何度か瞬きをする。その間にのはら先生はきりっと医師の顔になり、左腕の包帯をくるくると解いていく。
「左腕、痛みはどうですか?」
「体重掛けると痛いですけど今は特に何も」
「そうですか。傷口も化膿してないですし、体内に侵入した毒もあと二、三日もすれば抜けると思います」
「……え?」
今、のはら先生すごい物騒な言葉を言わなかったか? 毒?
「あの、のはら先生……今、なんて? 毒って言いました?」
「はい。もしかして気づいてなかったんですか? あの森、結構毒草が生えてるんですよ」
のはら先生はこともなげに言うけれどオレからしてみればかなりの大事件というか、もしかして傷が悪化していると感じていたのはその毒草の毒素が体内に入ったから、か?
そう考えればこの右腕の管の数も納得がいく。そりゃあ、点滴と解毒剤とその他諸々が重なればこんなにもなるはずだ。
「そう、だったんですか」
「一時は危うかったんですけどもう大丈夫そうですね。あとは安静にしててください」
「ありがとうございます。また助けられました」
「いえ、人を助けるのが仕事ですし。それに助けられたのは私の方です」
そう言ってのはら先生は包帯を巻き直してくれる。優しい手つきに温かな指先。何故だかそれを見ていると胸の奥がじんとする。
「あの時のうちはさん、とてもかっこよかったですよ」
日の光を受けてきらきらと光る柔い笑みと共に突然投下された爆弾発言に頬が熱を持つ。のはら先生が体温計を手に取るくらいなのだから相当オレの頬は――というか顔全体は真っ赤になっていたのだろう。
そこでようやく気付いた。というか、その兆しは少し前にもあったはずなのに、その時のオレはそれがのはら先生の前世を引きずってのことなのか、それとも純粋にのはら先生に向けての思いなのかわからなかった。だけどこれではっきりした。前世はもう関係ない。オレはのはら先生のこの笑顔が好きなんだ。今オレの目の前にいるこの人の笑顔が――この人のことが好きなんだ、と自覚した。自覚した途端にまた頬に熱が集まる。
「う、うちはさん!?」
いい歳した男が二度目の恋にあたふたしているなんて知られたくなくて、必死に大丈夫です、と答えてみるものの顔は以前真っ赤なままだからか説得力なんてものはない。結局顔の熱が引いたのはそれから一時間以上経った後のことだった。
午後になってばあちゃんが見舞いに来てくれると、途端に病室が賑やかになる。入院しているオレに気を遣ってなのか、それとも単に話したいだけなのか、ばあちゃんの口はすらすらと、まるで休むことを知らないのではないかというくらい動き続ける。立て板に水ってこういうことを言うのかもしれない。よくもまあ、次から次へと話題が出てくるもんだ。
「そういえばね」
一度言葉を切ったかと思えば、今から話すことが余程おかしかったのか、ばあちゃんはふふと笑みを漏らす。
「そんなに面白い話なのか?」
オレの問いかけにばあちゃんは「そうね」と返して話を続ける。
なんでもオレの入院は近所中で話題もとい噂話になっているらしい。それは、こうも立て続けに入院するなんて何か憑いてるんじゃないか、という内容のものらしく当のオレはといえば苦笑いを隠し切れないでいる。
「なんだそれ」
声にもれてしまった本音をばあちゃんは聞き流してくれる。
「それにしてもオビトちゃん、本当に立て続けに入院してるんだから気をつけなきゃだめよ」
「わかってるよ」
ばあちゃんの忠告に薄く笑って答える。
「おばあさんの言う通りですよ」
急に会話に入ってきた声にばあちゃんはゆっくりと、オレは驚いてその主の方へ首を傾ける。
「の……っ、」
「あら、のはら先生」
柔らかな笑みを浮かべのはら先生を迎え入れるばあちゃんに対し、オレはといえば視線があちらこちらにいって落ち着かない。好意を自覚した途端に今まで普通にできていたことができなくなってしまった。自分でも情けないというのは重々自覚している。
察しのいいばあちゃんに疑われないようになるべくいつも通りの態度を装うと努めるけれどいつも通りってなんだ? オレはいつものはら先生にどんな態度だった? どんな表情をしていた? 考えれば考えるほどドツボにはまったようにわからなくなる。
「じゃあ、これ。脇の下に入れてください」
そう言ってのはら先生が差し出してきたのは体温計。はて。何故ここで体温計が差し出されるのか。
「さっきすごい顔真っ赤になってましたからね。今は見た限りだと落ち着いているみたいですけど念のため熱、計ってください」
「あら、そうなの? オビトちゃん」
ばあちゃんが浅く首を傾げて問うてくる。それに「ああ、うん」と曖昧に答えて、差し出された体温計を受け取って脇の下に挟み込む。金属部分が皮膚にあたることにより襲いくるひやりとした感覚にほんの少しだけ身震いをする。けれどそれも一瞬のこと。数分ののち、熱を計り終えたことを短い電子音が知らせてくれる。体温計を抜き取ってそれをのはら先生に手渡す。
「うん、大丈夫そうですね。それにしてもさっきはなんであんなに顔が真っ赤になったんですかね?」
「さあ、なんでですかね」
のはら先生の顔を直視できなくて視線を逸らしながらそう答えるので精一杯だった。
そんなオレの挙動不審っぷりにのはら先生は心底不思議そうな表情を浮かべ、首を傾げながら体温計を元あったところへと戻す。
「それじゃあ、ごゆっくり」
とばあちゃんに向けて視線を投げた後、彼女は踵を返して部屋から出て行く。
ぱたん、と完全に扉が閉まったことを確認してから、ばあちゃんは満面の笑みを浮かべる。
「オビトちゃん、遂に春到来ね」
今のやり取りを見ていたばあちゃんのその口ぶりは妙に確信めいていて、さっきとは違った意味で苦い笑みを崩せない。ほんと、ばあちゃんには隠し事なんてできないのかもしれない。
「いいわねぇ。私、オビトちゃんと先生はお似合いだなって思ってたのよ」
「お似合いって……。ばあちゃん、勝手にのはら先生の気持ちを決めつけるなよ」
そう、これはまだオレがのはら先生のことを好きだと言うだけの話で、彼女がオレのことをどう思っているのかまではわからない。嫌悪感を抱いていないのはなんとなくわかる。けれどそれがイコールで好意になるかというとそれはまた別の話。人の気持ちは好きか嫌いかの二分できるものではないのだから。だけどばあちゃんはあら? といった表情を作りオレの顔を覗き込んでくる。まるでオレの言ったことに疑問を持つかのように。
「オビトちゃんって……」
その先を言わず、ばあちゃんは何やら含みのある笑みを作って流してしまう。
なんなんだ。ばあちゃん、何を言おうとしたんだ。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るわね」
また明日、と残してばあちゃんはゆっくりと腰を上げる。
いつもならオレが一緒に帰ってばあちゃんを家まで送っていくのに今回ばかりはそれもできない。さすがに安静にしろと言われた手前動き回ることは気が引けるし、そもそもこんな管だらけの状態では満足に歩くことすら叶わない。なので心苦しくはありつつもばあちゃんの背中を見送ることしかできない。
「気をつけろよ、ばあちゃん」
「ありがとう、オビトちゃん」
いつもの柔い笑みを浮かべて、ばあちゃんは小さく手を振りながら病室を後にした。
それから幾日か過ぎて、やっと体内の毒も抜け腕の傷も無理をしなければ大丈夫という範囲まで回復し、漸く退院をすることとなった。長いようで短かった入院期間中、ばあちゃんは一日も欠かさず見舞いに来てくれた。まあ、見舞いついでにのはら先生と茶飲みもしていたようだけれど。
ばあちゃんに持ってきてもらった必要最低限の着替えを袋に詰め込んで、それを持ち上げたタイミングでのはら先生が病室へと入ってくる。
「退院おめでとうございます」
「ありがとうございます」
事務的な当たり障りのない挨拶を交わして頭を下げる。
「のはら先生のおかげで命拾いしました」
「私は自分の仕事をしただけです」
謙遜でもなんでもなく、のはら先生はそう答える。その仕事によってオレは二度も命を助けられている。恩人といっても過言ではない。
好きになった人が命の恩人ってなんだかドラマチックだ。
そんなことをオレが考えている間に、のはら先生は何かを決意するかのように一つ息を吸い込んでは吐き出す。
「あの、うちはさん」
「はい」
そこでのはら先生は一呼吸おいて、
「リンでいいです」
と、脈絡もなくそれを口にし、オレは慌てて顔を上げる。
「……おばあさんから聞いたんですけど、私たち同い年ですよね? だったらその、苗字じゃなくて名前で呼んでください。のはら先生って言われるの、本当言うと少しくすぐったかったんです。それに同い年の人に敬語ってあんまり得意じゃないので」
そう言って、照れくさそうに少し頬を赤らめるのはら先生――リン、さん。
「私、うちはさんと知り合いになれてとても嬉しいんです。だから、その……よかったらこれからも仲良くしてくれると……」
「よろこんで」
自分でもはっきりとわかるくらい不器用な笑みを浮かべる。リン――の素敵で可愛らしい笑みを前にした今のオレにはそれが精いっぱいだった。
「ありがとう、ございます」
「こちらこそ。あ、あとオレのこともうちはさんじゃなくてオビトでいい、です」
そんなに長い期間敬語で話していたわけではないのに、癖になってしまっていたのか微妙に抜けきらない敬語に二人して笑う。
「ふふ、それじゃあ、これからもよろしく。……オビト」
「おう。……リン」
照れくさくてなんだかまともに顔が見られず、視線があちこちに行って落ち着かない。そんなことを数秒繰り返し、
「二人ともこんにちは、お話は終わったかしら?」
突然入ってきた第三者――ばあちゃんの声にオレも、そしてリンもびくりと肩を震わせる。
「うわっ、ばあちゃん!? 何してんだよ!」
「こ、こんにちは……」
「何してんだよ! はないでしょう? オビトちゃんを迎えに来たのよ」
杖をついて歩いてくるばあちゃんがオレのことを迎えに来るって、それ、普通は逆なんだけどな。まあ、でも迎えに来てくれたのは正直嬉しい。いつも診療所に来るのも帰るのもオレの隣にはばあちゃんがいた。だからなのか、ここから一人で家に帰るのはなんだか少し寂しかった。なのでここは素直な気持ちを口にする。
「ありがとう。ばあちゃん」
「どういたしまして」
ふふ、と笑ってばあちゃんはリンへと向き直る。
「先生、ありがとうね。オビトちゃんがこうしているのもあなたのおかげよ」
その言葉に彼女は下唇をきゅっと噛みしめた後、「はい」と小さく頷く。こういう場面を見ると、ばあちゃんにはかなわないなと思い知らされる。
「…………」
それが何故だか嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになって、オレは静かに口を引き結んだ。
さて、とばあちゃんの視線がオレに向けられる。
「それじゃあオビトちゃん、帰りましょうか」
「そうだな」
着替えを詰めた袋を持ち直してもう一度リンに対し頭を下げる。
「またおばあさんと一緒にお茶を飲みに来てね」
「ああ」
柄にもなく手を振ってみる。それにリンも応えて右手をひらひらと振ってくれたのが嬉しくて頬がにやけそうになるのを何とか堪えた。
*
「のはら先生、オレが時間を稼ぎます。その間に森を抜けてください」
思い出すのは頼もしい背中。
私と子どもたちを守ろうと、何の武装もしていないのに野犬に立ち向かったその姿はとてもかっこよくて、不思議と胸が締め付けられた。ああ、どうか無事に戻ってきてほしい。そう、強く願った。
だけどしばらくして戻ってきたうちはさんは満身創痍な状態で、しかもそんな状態であの森を抜けてきたものだから知らず知らずのうちに毒素を体内に取り込んでしまっていた。診療所に戻ってくるなり倒れこんでしまった彼を処置室に運び込んでなんとか一命を取り留めることに成功したけれど、それから丸一日、目を覚まさなかった。
もしかしたらこのまま――なんて何度思ったことだろう。そのたびに頬を叩いてそんな弱気を振り払っていた。
だから、うちはさんが目を覚ましたあの時、泣きそうになるほど嬉しかった。
よかった。本当に良かった。助けられてよかった。またこうして話ができるようになってよかった。
――ここでようやくその理由について思い至る。
土砂崩れの一件も含めて、なんであんなにうちはさんのことがかっこよく見えたのか。どうして助けられてこんなにも喜びを感じるのか。
それはきっと好きだから。
私はこのうちはオビトという人のことを好きになったから。だからかっこよく見えた。だから助けられて嬉しかった。
理由がわかってしまえばなんてことはないことで。好きだからというたった五文字ですべてに説明がついてしまう。けれどこれは私の一方的な思いで、うちはさんが私のことをどう思ってくれているかというのはわからない。多分、悪しからず思ってくれているとは思うけれどそれがそのまま好意になるかといえばそうではないわけだし。
そんなことを頭の隅で考えながらうちはさんの包帯を解きガーゼを外す。見た限りだと化膿もしていなさそうだし、大丈夫みたい。よかった……。
心の内で安堵のため息を漏らす。
「ありがとうございます。また助けられました」
うちはさんの言葉に胸がじんと滲む。
「いえ、人を助けるのが仕事ですし。それに助けられたのは私の方です」
言いながらガーゼと包帯を新しいものに替えて、くるくると慎重に巻いていく。
傷を見たからなのかあの時の姿が思い出される。私と子どもたちを守るためにたった一人で野犬に立ち向かってくれた頼もしい背中。とてもかっこよかった背中。
そっと窺うように顔を上げれば、うちはさんは腕の傷に注視しているみたいで私の方は見ていない。
今なら、言えるかな……?
何度か呼吸を繰り返して、心を決める。
どうか声が震えませんように。そう願って、言葉を音に乗せた。
――あの時のうちはさん、とてもかっこよかったですよ